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・・続き4

仕事と役割 
 AMITYで最初に受けた衝撃は、スチューデントたちが実に多くの仕事と役割を持っていることだった。その仕事としては、食事・掃除・洗濯・整備など日常生活の運営は全てスチューデントたちによって分担され、一人一人が責任を持って実行していた。施設は清潔で、スチューデントたちによって施されたという色鮮やかな建物が心地よかった。
 そして、このような仕事とは別に役割を担っていくことが目指されていた。役割は「段階的役割」という治療共同体特有の方法に基づいておこなわれていた。段階的役割は、当事者が入所期間が進むごとに、少しずつ大きな役割を担っていく方法だ。

 その役割の内容は、新しい当事者のお世話などを行なう「デモンストレーター」、プログラムの日程調整や役割分担の調整などを行なう「ハウスコーディネーター」、グループワークの進行や講義などを行なう「シニアスチューデント」と回復の期間に従って、段階的に大きな役割を担うようになっている。最も特徴的な点は、プログラム終了後本人の希望によっては、「アプレンティスシップ」という見習い制度を利用することができることだ。見習い制度は、住み込みで共同体の仕事に携わることで小額の所得を得るもので、スチューデントの見本であり、職業訓練の要素も併せ持っている。このようにスチューデント全員が、他のスチューデントを支える役割が与えられ、スチューデント同士の強い絆が築かれていた。

 更に、新しいスチューデントには「ビッグ・ブラザー」「ビッグ・シスター」という世話役のスチューデントがつくようになっていた。そうすることで、入所当初の不安感や孤立感を和らげ、共同体に参加していくことをスムーズにしていた。
私には、18歳のあどけない顔をした女の子が「私があなたのビッグ・シスターになる!」と笑顔で迎え入れてくれ、歓迎されているのだと温かい気持ちになった。彼女はことあるごとに笑顔で私に話しかけてくれていたが、ある朝、挨拶をすると軽く相槌をうって暗い表情で去っていってしまった。

 後でスタッフから話を聞いたところによると、その日はスチューデント同士のトラブルがあり、彼女もその一人だったとのことだった。その時、私は思い知らされた。スチューデントたちは、まさに自分自身の問題に取り組んでいる当事者なのだと。
誰もが苦しみや悲しみを抱えていながらも、私たちを温かく歓迎する思いやりをもち、仕事や役割に対する責任を果たしている。

 「このスチューデントたちの力はどのようにして育まれるのだろうか?」

 次回はこのスチューデントたちの力の根底でもある、エモーショナル・リテラシーとデモンストレートについてふれてみたい。

(注1)アルコール依存症の場合治るではなく回復すると表現する。一生お酒を飲まない生活を続けることで健康的な生活を取り戻すことが出来ることから、治癒ではなく回復とする。

(第一回了)
 
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