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AMITYへの2度目の訪問
 そして、数か月後私は再びAMITYを訪問した。
 この滞在の最初の自己紹介の時、私はありのままの経験とそのときの感情を語った。話しながら涙が止まらなかったが、自分のわき起こる感情を怖いと感じなくなっていた。私が話し終わるとリカバリング・スタッフが、私の話に共感し涙をこらえながら、受けとめてくれ、そして他の参加者に語りかけた。
 「絵未がみんなの心の扉を開いてくれました。さあ皆さんも自分の心の扉を開いて語りましょう」
 それから、他の参加者たちも率直に自分自身のことを語った。
 
 この滞在では、グループ・セッションを受ける機会も得た。それは「ソーシャル・アトム」(注1)というもので、それまでの経験を家族の歴史、トラウマなどの背景から理解し、これまでの問題行動について、自身の被害者性と加害者性の両方から理解を深めることを目指したものだ。

 AMITYでは、スチューデントたちに共通する「子ども時代を剥奪された者の文化」に着眼 している。それは子ども時代に十分な愛情を受けることができず、一人の人間として当たり前に生きる権利を奪われてきた人々特有の生き方であり、その生き方はアディクション問題などの「自分に向けた暴力」か、傷害などの「他人への暴力」といった「症状」を見 せる。 このような症状を対処療法的に扱うのではなく、「剥奪された子供時代」に着眼し徹底して問題の根源を探り、向き合うことによって、剥奪されたものを自らの手に取り戻すことを目指す。

 私は、小学校5年生の自分のソーシャル・アトムのセッションを受けた。それは、最も孤独な子ども時代だった。
このセッションを通して、自分が孤独の中で生き抜いてきたことを実感した。セッションの間中、感情があふれ出し涙が止まらなかったが、そのことが心地よかった。自分の経験とそれを通した感情を表現することのできる安全な場所が与えられたことがとても心地よいと感じた。

エモーショナル・リテラシーへの挑戦
 私のこの経験こそエモーショナル・リテラシーへの挑戦だ。エモーショナル・リテラシーとは、感情をありのままに受け止め表現すると同時に、他者の感情をも受けとめる力のことだ。
 私は最初、自分の感情をさらけ出すのが怖かった。弱い自分を受け入れることが出来ず、弱い自分を語ることを拒み、心の扉を閉じていた。しかし、その心の扉を、スチューデントのマイキーが自分自身の経験と感情を示すことで開けてくれた。

 私はまず自分自身の経験に向き合った。そして、「隠さなければならない過去」が「誰かを導くことができるかもしれない経験」に変わったとき、それを語り始めた。
 次に、経験だけでなく、経験を通した感情に向き合い、そして語った。最初は怖かった自分の感情も、自分の弱さを受け入れることで怖くなくなっていた。そして、感情を語ることが心地よく感じるようになっていった。

 これが、エモーショナル・リテラシーへのプロセスだ。
 AMITYではエモーショナル・リテラシーを獲得していくことを最終的な目標としている。それは、アディクション問題の根底には、自分自身でコントロールできない感情が原因となっているという考えに基づいている。そのため、お酒や薬物使用のきっかけとなるさまざまな感情を、まずは表現し、そして受けとめることができるようになることで、アディクション問題に対処していくことができると考えられている。
 

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