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第四回目のテーマは、「エモーショナル・リテラシー」
薬物依存症の回復者で治療共同体のアミティの創設者のナヤ・ア−ビターさんとの対話です。
   
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グループは多岐にわたる


箱 崎 : 映画でも、グループのなかで、分かち合う場面が多く出てきて、互いに成長していく姿が紹介されていました。グループの分かち合いは、言いっぱなし、聞きっぱなしのセルフヘルプグループとは異なって、ファシリテータ−が入って具体的に話ができるよう、促している場面が多かったように思います。それはやはり必要なことですか?
ナ ヤ: 自助グループはさまざまで、一概にこれとは言えません。箱崎さんが言う、言いっぱなし、聞きっぱなしも1つのカタチだし、アミティの中でもそのようなグループをやっています。言いっぱなし、聞きっぱなしもあるし、対立的なグループもやるし、いろいろなことをやります。

今、ワークブックをシリーズでいろいろ作っています。最近、ようやく3つのシリーズの中で、セルフヘルプグループに関するワークブックのカリキュラムを作り終えたばかりです。その中でも提示していますが、1つだけのカタチがいいのではありません。人間の関係もそうでしょ。いろんな関係があるし、この在り方だけがいい、ということはないと思います。
箱 崎 : そうですね。
坂 上: 今回の映画の中では表現しきれなかったけれども、 様々なカタチがあります。ファシリテータ−が全く入らず、ワークブックをそれぞれが読んだりする。誰もそれを批判しないし、それぞれが自分について書いてそれを単に発表するだけ、という場もあります。
ナ ヤ: アミティでは、今、すぐに浮かんだだけで、12種類ぐらいのグループのスタイルがあります。

刑務所プログラムでは、受刑者に働きかけなくてはいけません。ということは、1年とか2年という限られた時間の中で、暴力的な人が成長できるプログラムをしなくてはいけないのです。だから聞きっぱなしだけでなく、いろんなスタイルのグループの中で、受刑者たちは自分を鍛えなくてはいけないのです。
それは言い換えると、スタッフにとっても大変なことです。そこにいればいいだけでなく、スタッフ自身が学ばなくてはいけない。スタッフ自身が、そこで何が起こっているかいつも意識していなくてはいけません。
坂 上: アミティのスタッフの多くは、以前は受刑者だったり、薬物問題を抱えていた当事者です。プログラム終了後に、専門的なトレーニングを受けてカウンセラーの資格を取り、インターンを務めた後、ようやくスタッフとして認められるというのが典型的なパターンです。刑務所のプログラムでは、服役中の受刑者がインターンとして働いています。彼らもまた、子ども時代に深刻な虐待を受けた被害者であり、他人を傷つけてきた加害者でもあります。
箱 崎 : アミティのスタッフは自分たちのことを「デモンストレーター(demonstrator=変わることができるということを自らが示して見せる人)」と呼んでいますね。まずスタッフ自らが示していくという。
ナ ヤ: はい。スタッフが自らの経験をレジデント(参加者)の前で語ることによって、レジデントたちの「感情」や「語り」を引き出す役目を担っています。自らのストーリーをオープンに語り、回復の可能性や道筋を実体験として示すことによって、レジテントたちの心を開かせていくのです。
箱 崎: 日本における援助職で最も遅れているのはその部分だと思います。自らは語らず、口も心も閉ざしたままで、子どもには変われという。対等な関係ではなく、上下関係の中では、心が深く傷ついた子どもたちや、暴力の中で育つなどして、人を信頼できなくなった大人たちの心を開くのは難しいですね。
アミティではそれとは逆に、まずスタッフ自らが自分を語り、心を開くことで、対等な関係を築き、安全な場だと示していくのですね。相手のため自分を語るという勇気は、相手の心に強く伝わると思います。
ナ ヤ: はい。自ら示して見せるためには、スタッフ自身が自分について常に学ぶ必要があります。自分はこういう人間だったんだとか、自分について学んで、もっと成長しなくてはいけないと、常に気づき学ぶ場です。アミティは非常にスタッフにとって辛い場所でもあります。(つづく)
アリゾナ州ツーソンにあるアミティ本部の敷地内 食堂内。円をイメージしたものが多い

※ナヤ・アービターさんとの対話は、次回後半に続きます。


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