top   1   2   3   4   5   6   7   8   9
 
 
 
・・・続き6

〈一生忘れられない3人の里親〉
 私は児童保護の仕事を通じて、今までにたくさんの里親に出会った。数多くの里親の中でも、この里親のことは一生忘れない、と思わせるような印象的な里親3人をここに紹介しながら、米国の里親をとりまく現状を伝えたいと思う。

〈子どもたちの永遠の家族を与える:ナタリー〉
 底抜けに明るく、気丈なのに限りなく優しい。人情深く涙もろい。
ナタリーは個性の強い里親だ。長い栗色の髪を無造作にかきあげながら、早口で子どもたちのことを話し始めると、ナタリーの色白の頬は赤く染まった。長年、保育園の先生をしながら、ひとり娘を育ててきた31歳の彼女はシングルマザーだ。 3年前、キーシャ〔当時4歳〕とナサニエル〔当時3歳〕というふたりの黒人の里子をひきとった時のことをこんなふうに語った。「緊急の措置だったから、夜8時を回って、夜勤のソーシャルワーカーがこの子たちを連れてきたんだけど、ふたりとも恐怖で震えてた。数日間は一言も口をきかなかったわ。やせ細って、歯に10箇所ぐらい穴があいてた。水が怖くて、お風呂に入らないから、ほんとに困ったわ」。
 
 虐待がもとで、左耳に難聴があり、左目がよく見えていないキーシャは、言語の発達の遅れから金切り声を出し、物をたたいて気持ちを表していたが、ナタリーのところに来て数ヶ月で、言葉を使って気持ちを表現するようになっていた。乳児期に成長障害で入院した記録のあるナサニエルは、虚弱体質で風をひきやすく、喘息の発作を何回も繰り返し、ナタリーはそのたびに夜を徹して看病した。

 このふたりの子どもの母親のデルシアは、転勤した恋人を探して、生まれ育ったルイジアナから、ワシントン州にやってきた。ナサニエルはまだ2歳になったばかりだった。そして、親子分離から2年後、知能障害のある母親のデルシアは突然、故郷のルイジアナ州にもどって行った。自分の姉に、キーシャとナサニエルをひきとって育てるように頼みに行ったのだ。法廷命令に従って、里親のナタリーはふたりの子どもをつれて、ルイジアナの叔母に引き合わせる3日間の旅に出た。

 この旅の後、キーシャとナサニエルはナタリーにまとわりついて離れなかった。里親のもとを離れて見知らぬ親族との生活が始まるかもしれないという不安からだった。叔母は結局は、手のかかる小さな子どもを自分の家族に加えられないと悟り「キーシャたちを引き取るのは無理」という通知を送ってきた。子どもたちと、ルイジアナにいる母親の接触は週に2回の電話を通じた会話だけになった。





   
 
COPYRIGHT(C)2006 ORANGE RIBBON-NET & THE ANNE FUNDS PROJECT ALL RIGHTS RESERVED.