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・・・続き7

 ナタリーとの生活になれきったキーシャは小学1年生に、そしてナサニエルは幼稚園へとそれぞれ進んでいった。これはある日、私がナタリーの家を訪れたときの光景。学校の黄色いバスに乗せられて、帰宅したキーシャとナサニエルは、玄関を息せき切って上がり、廊下を走りながら、「マミー。マミー」と大きな声で叫んでナタリーを見つけると彼女の腰に飛びついた。両手にふたりの子どもをかかえて迎えるナタリー。彼女は数年前の交通事故で痛めた右ひざを引きずりながら子どもたちを台所まで抱きかかえて行ってダイニングの椅子に座らせた。

 「あのね、今日はすーごくいいニュースがあるから、よく聞いて。私たち家族は、おーきな家に引っ越すの。芝生の庭がある2階建ての家」。子どもたちは興奮して家中が大騒ぎになった。キーシャが7歳の誕生日を迎える前に子どもたちに別々の寝室を与えなければならない。それが里親のライセンス認定の条件なので、ナタリーの引越しの決心はそのことに基づいていたことがひとつ。そして、彼女がキーシャとナサニエルを養子として迎え入れるための準備だった。

 ナタリーは私に言った。「わたしは、ついこないだ婚約を解消したの。婚約者が黒人の子ふたりを引き連れたわたしとの結婚にふみきれないって言ったから。わたしと長女にとって、この子たちのいない生活なんて考えられない。キーシャとナサニエルはわたしたちの家族だから」。上級裁判所で、養子縁組が決定したのは2009年。ナタリーが子どもたちに出会って4年の月日がたっていた。

〈里子だけでなく、実親も支えるのが里親の役目:ラモーナ〉
 私は、いちばん尊敬すべき里親とは、実親を支援し、親子再統合に導かせることのできる里親だと思っている。ソーシャルワーカーとしてしばしば感じてきたことは、米国でも、里親と実親のあいだにまだまだ距離があることだ。親から分離されたばかりの子どもたちは、精神的にも不安定だ。住み慣れた家や、学校や友人から引き離された子どもたちについての知識を誰よりも持っているのは、実親である。子どもの環境にできるだけ「継続性」を持たせるために、里親は、まず、実親にアプローチする必要がある。実親は、自分の子どもがどんな環境でどんな里親に養育されているのか、知る権利もある。

 私がラモーナというベテランの里親に出会って今年で4年目。彼女は、地域の他の里親の良き指導者であるだけでなく、実親のサポートを地道に続けてきた人でもある。「私も最初から実親の手助けを、率先してやってたわけではないの」とラモーナは自分の実親との体験を語る。

 「少しずつ手探りで、里子たちにとって一番大切な肉親とのコネクションをつくる努力を重ねてきた。手順としては、実親と面と向かって会うことから始めなくていい。今だって、私はそこから始めない。まず、実親との短い手紙のやりとりや、電話での会話で、子どもの養育について話あうの。その次は、子どもの健康診断のときに、実親とクリニックで待ち合わせたりすることで、子どもに関する有意義な情報を得る。お互いが、お互いの存在に慣れて、信頼関係が取れるようになったところで、里子たちを私が実親の家に連れてって、ヴィジットを行うようにするの」。

 私がラモーナ宅を訪れたある日、3歳の里子のミッチが母親に絵入りの手紙を書いていた。「この子の母親まだ20歳なの。私がずっとペアレンティングの指導をしてきたこの若い母親の元に、ミッチはあと数ヶ月でもどって行く予定。母親は、親子再統合の後も、毎週末ミッチをつれて私の家に遊びに来るって言ってる。子どもが、ふたつの世界を自由に生きて、2組の親に見守られながら育つ。こんないいことは無いよね」。そう言って、ラモーナは微笑んだ。





   
 
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