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・・・続き8

〈親族里親の心の痛み、そしてこれからの課題:ヘレン〉
 アメリカで、これからもっとも主流になっていく里親は、親族里親だろう。オレンジリボンネットによせた私の最初のレポート(アメリカ児童保護ソーシャルワークの365日)の第2回目と5回目に登場するヘレンという親族里親のことが、私の心に深く残っている。それは、彼女がとびきり個性的な人柄だったとか、優秀な親族里親だったからという理由ではない。60歳の祖母、ヘレンの心痛が、多くの親族里親の抱えている心の悩みを象徴していたからである。

  ヘレンの長女のナディアは幼少期に性暴力を受けたことが原因で、精神障害にさいなまれながら成長し、トミーとブラッドレーというふたりの男の子をもうける。トミーは母親ナディアのネグレクトがもとで、祖母へレンに引きとられた。5年後、ナディアはブラッドレーを生み、数ヶ月間はひとりでこの子を育てていたが、精神状態の悪化するナディアに、裁判所はブラッドレーを分離する判決をくだし、ブラッドレーは里親に養育される。祖母はトミーの世話と仕事で手一杯で、ブラッドレーを受け入れることができなかった。

 自分の娘の生んだふたりの男の子たちを一緒に育てられないことの、悔しさとつらさを、ヘレンは私に何度となく話した。そして何よりも、彼女が自分を責めたのは、ナディアに性暴力を与えた男が、自分の恋人だったことだ。「私はなぜ、ナディアを守れなかったんだろう。あんなことがなかったら、ナディアの人生はきっと違っていただろう」と言った。

 アメリカでは1980年代、急増する麻薬使用や売買の犯罪で監禁される親たち、エイズで死亡する親たち、子どもを虐待したり置き去りにする親たちに代わって、子育てを引き受けた祖母・祖父たちの数は全米で4倍に膨れ上がり、“高齢の親族による子育て”が社会現象として注目されるようになっていった。その後、あらゆる地域に、親族ケアギバーのためのサポート・グループが広がっていった。そして、連邦政府は1997年のASFA(アスファ)という児童福祉に関する法案で初めて、親族里親の重要さを表明する。

 そして現在、児童福祉における親族の役割と位置も大きく変わった。里子の4分の1が親類に育てられている。カリフォルニアやイリノイなどの数州では親族里親の占める率が半数以上になった。ここで私が取り上げた数値は、児童保護局の介入によって “正式に”親族に措置されている約、13万人の子どもたちのことで、政府機関の監督や支援無しに親族に育てられている、いわゆる ”非正式“な親族(キンシップ)ケアの子どもの数は250万人以上と推測されている。子育てにあたる親族は、叔父叔母など様々だが、約3分の2が祖父母。近年では、女性、つまり祖母や叔母のひとり子育てが目だって多く、キンシップ・ケア全体の4割が貧困のカテゴリーに属している。





   
 
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