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第一回目のテーマは「アルコール依存症」 医師でアルコール依存症者の竹内達夫さんとの対話です。
   
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続き10・・・

自分育てとトランス・パーソナル

箱 崎 : ACがお酒に溺れることはなくても、摂食障害になるとか、仕事依存や人に依存するという行動障害が出てくることもある。そういうことは、どのように先生はお考えですか?
竹 内 : それはね、環境でしょ。だから、次世代のアルコホリックは親のようにはなりたくないと思いながらなっていくようです。親の酒の飲み方がだらしないから、だらしない飲み方をしなければいいと子どもは思う。だけど、それは遺伝子が働くからできない。飲めばそうなる。大多数は親のようになる。氏か育ちか、とよく言われる。氏がすべてを決定しているわけではなくて、育ちがかなり影響を与える。氏は、育ちを通してなんです。そういう育ちにならなかったら、氏は発揮できなかったんです。育ちは親の育て方だけを言っているわけではない。本人の生き方もですよ。

本人の自分の育て方。酒もそうでしょ。最初は親が飲ませたかも知れないけれど、その後、ずっと飲んできたのは自分でしょ。氏か育ちかというと、親だけの問題に思われるけど、そうではない。本人の生き方を含めてのこと。数量的には出せないですけれど、強いて数量を出すと、氏が55%ぐらいだと思う。育ちが45%。だから、育ちの45%を十分にやらなければ、病気が発病して進行するのは当り前です。氏を発揮させない環境を作っていくために、自助グループは絶対に必要不可欠です。
箱 崎 : 自助グループで、受けとめられているという感覚が、アルコホリックを予防する環境になっていると。
竹 内 : 治療していますよね。
箱 崎 : それはどういう作用が治療になっているんですか?
竹 内 : 言霊もあるし、グループになると説教がないでしょ。説教は押し付けでしょ。嫌うんですよね。AAのプログラムにスピリチュアルがあります。12ステップ(注2)、12の伝統に。これらを充分に使ってほしいです。

氏と育ちについてですが、親がアルコール依存症で、その親からから生まれた一卵性双生児は、アルコール依存症の発症率が高い。けれども里子に出して、その里親がアルコール依存症でないと、発症率が低いという結果出た。つまり、遺伝子がすべてを決めるわけではない。育ちが大切で、過去よりも、「今、自分をどう育てるか」ということが大事なんです。親の育て方だけでなく、自分の育て方が大事。自分が自分を育てているのです。
箱 崎 : 自助グループの中で、自分の育て直しをしていく、ということですね。
竹 内 : 私は大川端集会を“養生集会”と言っているんです。あの会は一番最初の段階で、あそこで自助グループを体感して、どこかの自助グループに行ってもらいたい。時々、この集会で完結するとは思わないで下さいとお願いしている。しかも月に1回ですからね。自助グループは世の中に不可欠のものだと思う。だからもっとたくさんできてほしい。私はAAも断酒会にも参加しています。AAのプログラムの12ステップ、12の伝統を充分に使ってほしい。グループの中で喪失体験を癒していく。個別の対応が必要なときもある。だからAAにはスポンサーシップがあって、先行く仲間が個別に対応している。アメリカには専門家にスーパーバイザーがいる。ロジャースにもスーパーバイザーがいる。スーパーバイザーは助言する人でなく、支える人です。
箱 崎 : 竹内先生には、スーパーバイザーがいますか?
竹 内 : 大川端集会が私のスーパーバイザーです。助言ではなく、集会が私を支えてくれている。アルコール依存症は、家族の中だけではうまくできない。ラカンというフランスの大精神科医が、自分の娘に問題が出てきたときに人に任せている。ましてこの病気を知らずにアルコール依存症の対応は1人ではできない。家族ぐるみの病気だから、本人だけを摘出すればいいのではない。
箱 崎 : はい、本当に家族の病気だと思います。父がアルコール依存症だったことで、私、父、母と変な三角関係になっていました。父が亡くなってから、そのことに気づきました。
竹 内 : 3人が病的な人間関係になっていたのでしょうね。1人が抜けても関係は病んでいる。ドーナツはリングと穴がないと存在しない。リングと穴の関係でできている。穴だけ塞ごうとすることはできない。関係性の問題ですね。すごいストレスの中で生きているから、アルコール問題のない家族に比べて家族の寿命も短い。慢性疲労症候群になってしまい、身体的、精神的、免疫性にも影響を与えるからです。家族はいつも病気がちです。
箱 崎 : はい、そう思います。本人にも、家族にもグループのサポートが必要です。何もない状況の中だと、環境的にもがんを発症するリスクが高くなると思います。アルコール依存症と精神腫瘍学のつながりについて、竹内先生に是非研究してもらいたいです。
竹 内 : 箱崎さんがすればいい。
箱 崎 : 私がですか?(笑)。私はまだアルコホリックの家庭に育ったことを良かったとは思えていません。そこまではまだ到達していません。でも、いろいろな人たちと出会い、社会に起きていることを見ていくと、この問題は私の家庭だけの問題ではないと確信するようになりました。だから自分に起きていることを自分だけの問題にはしたくないのです。わかち合いたいのです。
竹 内 : “トランス・パーソナル”ですね。己を超える、という意味です。自分の問題だけにしない、というのはトランス・パーソナルです。幸せになる人に定員があるわけではないですから。
箱 崎 : 先生が言われるような格好いいことというよりは、自分だけの問題にするには、腹が立つからです。
竹 内 : 怒りですね、正義の。
箱 崎 : 怒りも社会資源にできれば無駄にならないかと(笑)。私はまだまだ回復途上で、よく転ぶし、人にいっぱい迷惑をかけています。
竹 内 : 生きにくさを感じていない人はいない。人生はそのプロセスではないでしょうか。
箱 崎 : はい、そうですね。今日は、長時間に渡ってありがとうございました。

(注1) Alcoholics Anonymous=アルコホーリクス・アノニマスの略
無名のアルコール依存症者の自助グループ。1935年、酒で何もかも失った株ブローカーのビルと、医師のボブが始めた。医師や専門家が主導権を握るのではなく、当事者同士が気持ちを語り合い痛みを分かち 合うことで、回復していくと気づき、AAの基盤を作った。AAは150国以上に広がり、全世界のメンバー数は208万人。日本国内のメンバーは3000〜4000人で、全国に440のグループがある。
(注2) AAの回復のためのプログラム

→ 竹内達夫さんプロフィール
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