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役割のモデリング

 メンバーシップ・フィードバックを実現する中でも重要な点が、役割のモデリングである。治療共同体には独自の様々な手法があるが、これらは全て見て学び、実践することで伝えられている。

 例えば、安全なフィードバックを行う方法についても、スタッフが一方的に「こうするんですよ」と口で教える方法はとらない。安全なフィードバックをやって見せて、そして、「それはこういう方法ですよ」と教える方法をとっている。スタッフはメンバーにとって一番のロールモデルとして、メンバーがどのように進み、どのように考え、どのようにふるまえばよいのかを示している。 

 このような役割のモデリングとして治療共同体の象徴的な言葉がある。
「スタッフは自分自身がやりたくないこと、経験したことがないことを、相手に求めない」 という言葉である。全ては自分自身が経験し、その中で学び感じたことを、行動をもって伝えるということが目指されている。

 このような役割のモデリングは、自助グループやMAC・DARCなど当事者を中心とした組織では伝統的に用いられている方法である。「先ゆく仲間」や「スポンサー」という役割を回復の段階に応じて担っている。治療共同体では、これらの役割を回復の期間や段階に応じて、明確に設定されているのが特徴である。誰がどのような役割を果たすことが望まれているのかということが、全員が共有できており、また全員がその役割をもっている。(連載第5回参照)

 一方、刑務所内プログラムなど専門職を中心としたプログラムの場合、この役割のモデリングについては大きな課題を抱えることとなる。治療共同体では、誰もがロールモデルとして目指す誰かがいて、そのロールモデルを指標として回復を歩んでいく。しかし、専門職スタッフのみで回復者スタッフがいない場合、専門職スタッフが自分自身の治療共同体での経験やその中での学びを示していくことでしか、指標をつくることができない。 

 アメリカの治療共同体では、専門職スタッフと回復者スタッフの協働はごく自然なこととして捉えられており、お互いの長所や短所を補い合うことが可能となっている。しかし、日本では、回復者スタッフ中心の施設と専門職スタッフ中心の施設が明確に分かれており、お互いに協力する姿勢は示しながらも、お互いの領域に踏み込まないことが暗黙の了解となっているように感じられる。この協働を実践していくことこそが、現在の日本で取り組むべき大きな課題のひとつである。
 
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