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・・続き4

アファメーション
  キッチンの仕事にも徐々に慣れ、当初の目的だった援助方法の勉強を始めた。それ以外の時間には、スチューデント達と同じように、ミーティングやグループに参加し、ふと気づくと大忙しになっていた。

 そんなある日の全体ミーティングの時、最高のご褒美が与えられた。
 全体ミーティングでは、スチューデントで運営され、Amityの理念について自分の思いを話したり、各自の仕事についてきちんとおこなわれているか確認したり、スチューデントやスタッフに対して感謝の思いや素晴らしいと思う言動に対して賞賛の思いを伝える「アファメーション」が行われる。

 その「アファメーション」の時、私の名前が呼ばれた。これまで全体ミーティングでは私はいつも傍観者だった。自分の名前が呼ばれるとは想像もしていなかった。
 「絵未は、言葉の壁があってとても大変なのに、いつもキッチンでは笑顔で仕事をして、さらに勉強もしている。彼女はただ単に一生懸命働いているだけでなく、私たちがどのように取り組んでいくべきなのかデモンストレートしてくれている」と伝えられた。
私は思わず感動で泣きそうになった。「共同体の一員として受け入れられた」ことがとても嬉しかった。
さらに彼はデモンストレートしているとアファメーションしてくれた。
デモンストレートとは、Amityで大切にされている理念の一つで、何かを言葉で伝えるのではなく、自分自身の姿勢や行動や経験を示すことで伝えるという意味がある。
日本では援助者として、誰かを導いたり手伝ったりということがごく自然だった私も、Amityではいつも誰かに手伝ってもらうことばかりだった。そんな自分が誰かの何かの役にたてているのだと、最高のアファメーションをもらった。

 Amityでは「ファースト・ハンド」「セカンド・ハンド」という考え方がある。
昔の自給自足の時代には、誰もが自分自身で衣食住の術を知る「ファースト・ハンド」だった。しかし時代の変化とともに、衣食住に関するもののほとんどは第三者の手に委ねられ、第三者によって作られるものを使う「セカンド・ハンド」が大部分になった。
アディクションの世界に置き換えると、専門家は当事者の経験から学ぶ「セカンド・ハンド」であり、当事者は「ファースト・ハンド」である。だからこそ「ファースト・ハンド」の重要性を理解しようということが言われている。
 私は「セカンド・ハンド」だ。私には当事者の経験はなく、その経験から回復の姿勢を示すことはできない。でも、彼らは私がデモンストレートしていると伝えてくれた。
 「セカンド・ハンド」でも、どのように生きていくことができるのかを示すことができる。共同体の中での生き方を示すという意味では私も「ファースト・ハンド」だと伝えてくれた。
 このアファメーションは、私にとても大きな勇気をくれた。

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