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・・続き2


 赤ちゃんにはマルティーナという名がすでについていた。真っ白なブランケットにくるまれたマルティーナのちいさな頬は赤く染まり、気持ちよさそうにすやすやと眠っている。 しばらくすると、里親が大急ぎで病室に入ってきた。マルティーナをこれから養育してくれるイザベルだ。「ごめんなさい。遅くなっちゃって。かわいい赤ちゃんね。」と言って、私の手からマルティーナをうけとり、しばらくその寝顔に見入った。

 ドリスと彼女の子どもたちをとりまくこの複雑なケースには最初からDVの影が深くさしていた。ちょうど1年前の秋、ドリスは、ジェフという男と同棲していた。新生児マルティーナの実の父親だ。ドリスはジェフからひんぱんに暴行を受けていた。

 ジェフは2007年の秋、麻薬更生のためのグループ治療に通っていた。治療の最中に仲間に向かって、イジーの“おもらし”についてあからさまに話し、その話の内容に虐待のサインがはっきりと浮きあがった。それを察知したカウンセラーが児童保護局に通報したのだった。カウンセラーは、「ジェフはイジーが反抗的で、わざとおしっこをもらしてズボンをぬらす、と考えているようです。彼は反射的に激怒する傾向があります。

 ジェフは更生グループの仲間たちに、イジーがジェフに怒られるのが怖くて、一日中汚物のたまった下着を着ていることを自慢げに話しました。」と言った。「今日、ジェフは、麻薬更生グループにやってくるなり、イジーが3回もズボンにおむらししたので、お尻をたたいたら、赤くあとがついた、とみんなに言いました。」カウンセラーによると、ジェフの父親もアルコール中毒症で、ジェフは小さい頃、自分の父親から身体的虐待を受けていた。 
 
 この通告を受けた児童保護局の緊急レスポンスのソーシャルワーカーのステーシーがエヴェレット署のブレナン警部とともに、その日のうちに母親ドリスのアパートに出頭した。アパートに着くと、母親が赤ちゃんのハンナを抱いて座っていた。3歳になったばかりのイジーはとてもおしゃべりでひとなつっこく、ステーシーの足にまとわりついてきた。家の中には、ほかに誰もいる様子はなかった。

 ステーシーは母親に、子どもたちをジェフに託して、どこかに行ったことはありますか、と聞いた。ドリスは、「タバコを吸いに庭に出るときと、台所に立って料理をする以外は、子どもをジェフと一緒に取り残すことはないです。あたしはジェフと同棲してるわけではないですから。」と言った。イジーのおしりの痣は、2,3日前に、公園で遊んでいるときに、転んだから、そして、足の傷はいろんなところにぶつかってできたもの、という説明をした。

 ステーシーが「イジーのお尻を見ていいですか」と母親にたずね、承諾を得てから、他の部屋に連れて行った。そして「これは、ころんでできる痣ではないです。」と言うと、母親は黙ってしまった。ブレナン警部は「足の傷が、いろんなところにぶつかってというのは正確な説明のようですが、おしりのあざは、内出血が見られ、縦20センチ、横12センチほどにおよび、転んだ痣のようには見えません。」と言うと、イジーの臀部と足全体の写真を撮った。

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