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・・続き7

 母親にはイジーとの関係を修復する治療が必要だった。私は、PCIT*という親子のためのセラピーを母子に与えるために、専門のセラピストに連絡をとった。母親とイジーふたりだけ面会が始まり、セラピストが週一度、訪問室に通ってくるようになった。
 そのころ、母親のドリスは、3ヶ月の禁固刑のあと出所したジェフに対して、ようやく接近禁止令を法廷に要請した。児童保護局の介入時から、そして、ソーシャルワーカーが最初に母親に、接近禁止令を出するようにしむけてから7ヶ月あまりがたった4月のことだった。

 ドリスの自立を支えていたのは児童保護局とセラピストだけではなかった。福祉局のケースワーカーもドリスのDVの被害暦を把握していて、住居探しに協力した。ドリスは福祉局のケースワーカーと私とのミーティングの中で、自分には「運よくアパートが見つかってひとりでそこに暮らしているから、ジェフからの暴力の心配は無い。」と言った。そして7月なかば、ドリスが引っ越したアパートには男が同居していることが発覚する。ドリスはその男の情報を児童保護局には明かさなかった。だが、男の名前と生年月日だけで、過去に十代の女の子をレイプした罪のほか、DVの犯罪暦のあることがわかった。

 そのころ、メアリー・ラッセンというサイコロジストが母親ドリスの精神鑑定を進めていた。ラッセン博士は、性暴力加害者のアセスメントや治療もする専門家だ。彼女は、母親がこの10年間に渡って、あらゆる男とたちと交流し、そのほとんどの男たちにDVの経歴があったこと。そして、ベス・ロバーツからセラピーを受けているにもかかわらず、危険で自虐的な関係から抜け出そうとしていないことを指摘した。ラッセン博士はこの母親が、子どもたちを安全に育てられないことをレポートに明記し、そして生まれてくる赤ちゃんも、児童保護局が裁判所に書類を提出して、出生時に引き取る用意をすることを示唆した。

 私はドリスに彼女の現在の恋人の犯罪歴は、児童保護局の立場からは安全性に欠けすぎていて、イジーもハンナも彼女の元にはもどせないこと。そして、彼女がひとりで暮らすことを決意しなければ、生まれてくる子どもも引き離す裁判手続きをすることを話した。ラッセン博士のレポートの内容についても詳しく説明した。その後も、ドリスはその男のもとを離れず、同居し続けた。

 イジーとハンナの世話で手一杯のハンナの祖母からは、「ドリスの赤ちゃんは養育できないから」とすでに言われていた。サウスダコタに住むドリスの姉、レスリーはドリスが臨月であることを知っていた。私との会話の中では、レスリーは、いつかは子どもたちを3人まとめて引取りたいという意向を示していたものの、この州を隔てた手続きには数ヶ月の準備の期間がかかる。私は、これから生まれてくるドリスの赤ちゃんを一時的にあずかってくれる里親を探した。里親イザベルから、赤ちゃんを引き受けられるとの連絡があったその晩に、私は病院からの緊急電話を受け取った。母親のドリスは2週間早産で、すでに陣痛に入ったと・・・。 

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